第九章 《中国紅茶“工夫紅茶”について》

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  世界中で楽しまれている紅茶。紅茶の始まりも、もともとは中国であることをご存知ですか?中国の紅茶はインドやスリランカ産の紅茶に比べて、タンニンが少なく、渋みがあまりありません。中国紅茶を代表するお茶は、“工夫紅茶”と呼ばれます。

 中国紅茶の原材料となる茶木の原産地は、中国の武夷山地域です。世界で初めて作られた紅茶は武夷山で生産された“正山小種”というお茶で、すべて手作りで作り上げられました。紅茶は、武夷山で生産された緑茶の製造プロセスの中から自然発生されてきたという説が一番有力候補です。現在生産されている紅茶のタイプは、“工夫紅茶”と“小種紅茶”と“ブロークン・ティー”で、一般には1~7級に分けられ出荷されています。

 中国紅茶を代表する工夫紅茶は、茶葉がしっかりよじれた“条形紅茶”です。一芯一葉から、一芯2~3葉の原料を手摘みして、《萎凋→揉捻→発酵→焙煎→精製》というプロセスを経て、茶葉の形と香りと味を最大限に生かした作り方です。《機械で大量に作れるブロークンティーとは違う概念》で作られます。

 この中国の工夫紅茶には有名なお茶が2つ。《正山小種》と《祁門紅茶》があります。

 “スモ-キーな味わい”と、よく本では紹介される《正山小種》は、海外輸出用が中心で、価格帯が低めです。ところが、現地で飲んでみると本物の正山小種はスモーキーではなく、6煎飲んでもまだ余韻が続き、“龍眼のような甘い香りと芳醇な味わい”があります。決して、“正露丸”のような燻した香りでも味わいでもありません。ぜひ、本来の正山小種を飲んでみてほしい、と思っています。

 また、1876年、祁門で小葉中葉種の原料を使って、正山小種を参考に、“祁門紅茶”の生産が始まりました。祁門紅茶は、“リーフの状態を重視して、何度でも飲める”という工夫紅茶の概念で作られている紅茶です。これに対して、”イギリス植民地紅茶” は “水色・香り・味”に重点を置いて、形は気にしない”という考え方で作られている紅茶です。そのため機械生産が可能で、大規模に作られるブロークンティーは生産コストが安いために、1879年以後、国際市場の主導権を握っています。

 外観が綺麗で、数煎目でも美味しく入れられる “工夫紅茶” は生産価格が高いため、茶通の中でしか通用しないお茶になってしまいました。本当に残念なことです。
 しかし、最近の本物志向が台等する風潮に、工夫紅茶の本物の美味しさを追求する方の声が強くなってきています。手間と時間を丁寧にかけて作り上げる、職人の技術が問われるのが工夫紅茶。中国茶の魅力を知る上で、ぜひ飲んでいただきたいお茶です。

 飲み方はストレートがおすすめ。時間をかけて作り上げたお茶は、やはりゆっくりと、時間をかけて一杯、一杯とお楽しみください。烏龍茶のように、小さな杯でぜひ一度味わってみてください。十分な心地よさと満足感がきっと得られると思います。
店主 林聖泰

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