約10年前、中国語をほとんど話せない妻を連れて、窯元に挨拶回りに行きました。すでに有名作家となった長年の友人から、急須の話をいろいろと聞かせてもらっていました。
このときふと、ひとつの美しい形の朱泥急須が目に入りました。
手にとってみると、その手触りのなめらかさと軽さに驚きました。なんと、一般に市販されている急須の半分以下の重さだったのです!
また、この急須の底には、底款(款識)とよばれる作者の名前、つまり友人の名前がないことに気がつきました。友人が言うには、忙しくて名前を入れ忘れてしまったのだそうです。
そして彼は、この急須を私達にプレゼントしてくれました。
お茶が大好きな私達は、早速この急須を使って、阿里山烏龍茶をいれてみました。すると、一般の急須より、格段に美味しさが感じられたのです。このときから、この謎を解くべく様々な実験が始まりました。
違う配合の素材、重量、精密さで作られた急須を使うことで、味や香りはどのように変化するのか?といった研究が毎日のように進められました。こうして5年の歳月を費やし、ようやく土の素材や焼成温度、仕上げ方法などの秘密を解き明かし、独自の理論が完成したのです。
これが、華泰茶荘がお茶のプロとして、独自に工房へ投資し、自社ブランドにこだわる最大の理由です。一般シリーズ、こだわりシリーズ、超薄シリーズ、仿古シリーズ、ミニ携帯シリーズ、工芸師シリーズ…。毎年新しい作品が誕生し、中国茶愛好家の皆様からの絶賛をいただきました。
美味しい中国茶を最大限に楽しむための茶器や茶道具の研究と開発は、今でも日々続いています。この原点は意外にも、友人からもらったひとつの急須だったのです。今ではピカピカになったこの「薄地の急須」を今日も使っています。
ひとつの急須がお茶の風味を完全に変えてしまう…急須の世界は本当に奥深く不思議ですね。
※ちなみに、この急須は、日本アジア航空の広告で金城武さんが使用していたものです。
★華泰茶荘オリジナル急須世界は、こちらへ
林 聖泰