%PDF-0-1
蟹眼と魚眼のあいだの浮き沈み~人生に適した温度~ | 華泰茶荘

蟹眼と魚眼のあいだの浮き沈み~人生に適した温度~

world_20060612

 同じ梨山烏龍茶を水で入れた場合と、熱湯で入れた場合では、大きな違いがでてきます。

 水で8時間ほどかけ、ゆっくりと抽出した茶の味は落ち着きがあり、さわやかな暁の風のようです。水色も新鮮な蜂蜜のように透き通っています。

 一方、熱湯で入れた茶は香りが高く広がり、のぼりゆく朝日のように心地よく、上質な陳年物の酒のように深みのある水色をしています。茶の味や香りは、もともとの茶葉の品質だけでなく、水温によっても大きく影響を受けるのです。
 
 良い茶が、良い水、良い茶器、適した温度に出会ってこそ、その茶本来の味わいが引き出せます。私はこれを「お茶の四難」と考えており、さまざまな経験をしてこそ、本当にお茶がわかってくるのだと思っています。これは、人生にたとえることができ、紆余曲折を乗り越え、立派な人間へと成長していく様子によく似ています。

 冷たい水で抽出するように、じっくりと耐えることができれば落ち着きが生まれ、熱湯で入れるように激しい人生なら、若くして成功する可能性もあるが、失敗することもある。また、温度が足りない、つまり平坦であれば、人生もどこか物足りないものとなってしまう…。

 龍井茶を例にとってみましょう。「三起三落」という言葉があります。茶葉が三度浮き沈みすることで、完全な味と香りが引き出せると言われています。浮いたままでも沈んだままでもいけません。まさに、人生と一緒ですね。困難を味わってこそ、本当の喜びが味わえるのです。

 人生が人それぞれ違うように、温度によって茶の味は様々に変化し、また、発酵度によっても全て違ってきます。唐代の ≪十六湯品≫ や、明代の ≪煮泉小品≫ でも、水温の重要さが書かれています。また、宋代の蔡襄はこう言いました。「候湯最難、未熟則沫浮、過熱則茶沈」。湯の加減を見計らうのは非常に難しく、煮えていない若い水を使えば茶は浮いたままとなり、煮えすぎた老水を使えば茶は沈んだままとなり、その味は損なわれてしまう…。

 一般に、中国茶を入れるのに適した温度は、80~100℃だと考えられます。これを表現するのに、魚眼(大き目の泡が沸く状態)、連珠(泡が連なる状態)、蟹眼(小さな泡がぶくぶく沸く状態)といった言葉が使われることもあります。人生もこのくらいの温度の中で浮き沈みできるのが、一番幸せなのではないでしょうか。

 人生も、茶も、浮き沈みが必要です。中国語に「苦尽甘来」という言葉があります。苦しみのあとに喜びがやってくる。苦しみや挫折を味わってこそ、人生の甘さや喜びは味わえません。様々な試練を乗り越えて、本当の人生やお茶の世界を味わいたいものですね。
                                店主   林 聖泰

Comments are closed.