先日、資料を整理していたら、ふと古い新聞が目に付き、思わず手が止まりました。今は亡き祖父の写真が掲載された新聞でした…。
それは、1998年2月5日の「台湾時報」の記事で、華泰茶荘の工場である林華泰茶行が“百年老店"として表彰されたというものでした。台湾政府が各業種計175軒の中から19軒を厳選し、“台北百年老店”として表彰したのです。1842年創業の林華泰茶行も茶葉部門のトップランクとして、その中に見事に名を連ねたのでした。
そして驚いたことに、そのプレゼンテイターとして写真に写っていたのは、当時台北市長であった陳水扁氏だったのです。陳氏がのちに大統領になるとは、このとき誰も想像できなかったでしょう…。
現大統領とともに写真に写っている祖父の姿を見て、いろいろな思いがこみ上げてきました。祖父はまさに茶に人生を捧げた人で、いくつかの伝説も残しています。老舗ほど信用を大事にし、品質にこだわるその姿勢は頑固とまでいえますが、祖父もまさにこだわりの人でした。
かつて、台北が大雨に見舞われ、街の半分が水没するという大被害を受けたことがありました。もちろん、たくさんの茶葉も水に浸ってしまいました。ほとんどの業者達は、茶葉を再び乾燥させるという手段をとったのですが、祖父はなんと、100万元以上もの茶葉を廃棄処分にしたのでした。当時の100万元と言えば、ビル一棟が建ってしまうほどの大金です。
そんな祖父を多くの人が不思議がり、中には笑う人もいましたが、祖父は“金よりも信用が大事だ”といって、こだわりの姿勢を曲げませんでした。こうして、ゼロから再スタートしたことで、たくさんの方からの支援を受け、また名声を得る結果につながったのです。
低価格・高品質にこだわり続けた祖父を人々は「茶米阿公」※「茶王」と呼びました。「南坤海 北華泰」(南に坤海、北に華泰あり。※坤海…南部最大の茶商)といった言い方も生まれました。
14歳から茶の仕事にかかわり、99歳まで現役で頑張った祖父。
手で少しさわっただけで、その品質が全てわかってしまうほどでしたが、それでも毎日が勉強の日々だと言い続けていました。まさにその通りです。一年や二年では茶のことは到底勉強しきれません。それどころが、深くかかわればかかわるほど、茶がどんなに奥深いものであるかが実感できるのです。
毎年数回、自ら茶作りにチャレンジしていますが、作れば作るほど、茶の難しさがわかり、謙虚になっていきます。私は老舗の五代目として、外国の地・日本で中国茶事業を開拓してきました。
10年前の中国茶市場と比べると、ブームも一段落し、その人気が定着しつつあります。
老舗の看板の重さをしばしば感じることがありますが、こだわりや勉強の姿勢を忘れずにここまで頑張ってきました。
良いものを仕入れるためには、テイスティングがとても大事です。テイスティング力を高めるため、私の生活の中には、お酒もタバコも一切存在しません。これは祖父から三代に渡り続いています。人によっては、人生の楽しみが減ってかわいそうに…と思う人もいるかもしれません。でも、老舗の看板を背負うものとして、このこだわりは価値のあるものだと信じています。
現在、私は、茶葉製造者、販売流通のプロ、中国茶教室の教師、協会の普及活動など、いろんな活動をしています。それぞれの観点は少しずつ違いますが、お茶を愛する気持ち、お茶に謙虚に向かい合う気持ち、一生勉強の姿勢はすべて同じです。
今後も、皆様の信用を第一に考える老舗の看板を守っていくため、日々勉強を重ねていきたいと思っています。
今後もよろしくご支援のほどお願いいたします。
五代目店主 林 聖泰
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※ 茶米阿公(デビアゴン)… お茶にはとことんこだわるが、普段はやさしくて人気者のおじいちゃん