「茶音世界」第三章 ソロとハーモニー

 それでは、美味しい中国茶を鑑定するときに、プロが一体どういう風に判断を下すかと言うと、もちろんいろいろな要素が含まれますが、個人の経験によれば、厚みと余韻に尽きます。

 普通に美味しい高山烏龍茶なら、例えば、名器ストラディバリウスの音色をsoloで聴いている時のように、気持ちよく感じられます。
 大禹嶺、梨山、武陵、玉山など、高海抜地域で、美味しい高山烏龍茶なら、その美しいストラディバリウスが重なって奏でられるハーモニーのようなイメージです。一体感のある美しいハーモニーには、一本の楽器では表現できない厚みや、伸びやかな音の重なりがもたらす豊かな余韻をより楽しむことができます。すぅーっと透るようなsoloの演奏も素晴らしいですが、調和のとれた一流のハーモニーのように、良質な味と香りが巧みに重なり、共鳴しあうと、変化がより豊富に多彩になって人間の心に感動を与えるのです。

 美味しいお茶は、良い要素が一つあるということではなく、山の空気や育つ環境、土壌などの複雑な自然環境がもたらす良い香りと味が重なり、調和してできるものです。ですから、鑑定するときに表現される「厚みのある」という表現は、独奏の音色ではなく、オーケストラによって醸し出される奥行きのあるハーモニーの音色の表現です。

 もちろん、高い海抜に育った高山烏龍茶ほど、複数の人間が集まって奏でるハーモニーのように、失敗のリスクも大きくなります。バランスが崩れると美しいハーモニーにはならないのです。 
 美味しい高山烏龍茶に出合ったなら、大切に楽しまなければなりません。

 それぞれの高山烏龍茶には、例えばBeethovenとMozartでは個性が異なるように、それぞれのハーモニーがあり、それぞれのスタイルが構成されています。また、異なる個性を持つ美味しさがあることこそ、高山烏龍茶の持つ魅力と言えます。
 是非、クラシック音楽を鑑賞する気持ちと同じように、多彩な変化と繊細な表現を持つ高山烏龍茶を楽しみましょう。季節の風味や、産地の風味、品種の風味などは、交響楽団のように絶妙なハーモニーで演奏すれば、どれも魅力的な作品であるといえると思います。

音楽のコンサートを愉しむように、厳選した今年の高山茶を是非お楽しみ下さい!
                                       店主 林 聖泰

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