茶藝の美学①=「虚と実」 紫砂急須

 茶藝の美学=「虚と実」で表される、とも言えます。
 「虚と実」、これを現代の言葉で解釈すると、「0」と「1」とで表されるデジタル数字のようなものかもしれません。デジタルの世界では、0=虚、1=実ですね。 

ところで、芸術でいう「美」とはそもそも何でしょう。

 すばらしい芸術作品は、直接目に見える形で表現されているもの(実)と、目には見えないけれどその背後に確かに存在する部分(虚)とを内包しているものです。

 宜興紫砂の急須を例にとってみましょう。
 良い急須とは、まず直接目にすることができる、色合い、フォルムの美しさ、急須の肌合いの質感などで表現することができます。これがいわゆる「実」の美の部分です。
 しかし、じっくりと急須を見てください。取っ手と胴体の間にある空間、ここにも美しさが隠れています。つまりこの空白が「虚」の美なのです。
 形や色といった「実」ばかりを重視して、空白の部分「虚」を軽んじると、急須全体の美には欠けが生まれてしまうのです。
 芸術作品には、表と裏、陽と陰といった、相反するように感じられる要素がどちらも同じくらい大事なことなのです。両者が互いに影響し合い融合していくことで、ほんとうの意味での「美」が構築されるのです。

 一度手元にある紫砂急須の「空白部分」(=虚)を感じてみませんか。
 中国紫砂急須の美は、「実」と「虚」、この二つのバランスから生まれるものだと実感できるはずです。
                                     林 聖泰

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