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春の茶山に響く歌声と、一杯の物語――高啓《采茶詞》

 元末明初の詩人・高啓(こうけい)による《采茶詞》は、単なる春の情景描写にとどまらず、茶農家の生業としてのリアルな現実をみずみずしく切り取った名作です。

雷過溪山碧雲暖,幽叢半吐槍旗短。
銀釵女兒相應歌,筐中摘得誰最多?

歸來清香猶在手,高品先將呈太守。
竹爐新焙未得嘗,籠盛販與湖南商。
山家不解種禾黍,衣食年年在春雨。

◎新芽の輝きと、茶摘みの喜び
 冒頭の「雷過溪山碧雲暖,幽叢半吐槍旗短」。
 春雷が過ぎて山あいは暖かくなり、茶の茂みには極上の新芽が顔をのぞかせます。ここで登場する「槍旗」とは、開いていない芽を「槍」、開きかけの若葉を「旗」に見立てた、一芯一葉などの高級緑茶を指す専門用語です。春の生命力が凝縮された、まさに明前茶の瑞々しさが伝わってきます。

 続く句では、銀のかんざしを揺らし、「誰が一番多く摘めたかしら?」と笑い合いながら茶を摘む娘たちの、春の喜びに満ちた情景が生き生きと描かれます

風雅の裏にある、生業としての現実
 けれども、高啓の眼差しは、その華やかな景色だけにとどまりません。
 丹精込めて作られた極上の茶は、まず地方長官(太守)への貢ぎ物となります。そして、竹の焙炉で焙じたばかりの新茶も、生産者自身が味わう間もなく、買い付けに来る商人のもとへ運ばれていくのです。
 当時の茶の広域な商業流通と、作り手の切ない現実が鮮明に対比されています。

命を繋ぐ、毎年の春の雨
 極めつけは結びの「衣食年年在春雨」という一句です。
 山の農家は穀物の育て方を知らず、彼らの一年の暮らし(衣食)はすべて、お茶を育む「毎年の春の雨」にかかっている。お茶が単なる風雅な飲み物ではなく、命を繋ぐ生業であったことが、静かに、そして深く胸を打ちます。

<現代の私たちへ繋がる一杯>
 私たちが今日、香り高い春の新茶を穏やかに味わえる背景には、大自然の恵みと、名もなき人々の途方もない手仕事の積み重ねがあります。

 今年の春茶をいただくときは、遠い茶山の雨音や、茶摘み娘たちの歌声に、そっと思いを馳せてみませんか。

(写真・文章: NPO日本中国茶文化協会 理事長・林華泰茶行・日本華泰茶荘 五代目店主  林 聖泰) 

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