台湾一の観光地で、「有名な店」と「質の高い店」は別である

台湾随一の観光地・九份。
もとは金鉱で栄え、鉱山が閉じると寂れていった山あいの町だ。
それが、坂と階段に赤い提灯が連なる、いまの幻想的な姿で甦った。
海を見下ろす石段、湯気の立つ茶樓、世界中から訪れる旅人——
その中心にあるのが、茶樓(茶藝館)である。
けれど、ここで先に言っておきたい。
九份で「最も有名な店」と「最も茶の質が高い店」は、別の一軒なのだ。

最も有名なのは、阿妹茶樓。
かつての金鉱の建物を改装した、瓦屋根に赤提灯が連なる九份の象徴で、観光客とインスタ映えにとっては文句なしの一番だ。
よく「『千と千尋の神隠し』の油屋のモデル」と語られるが、これは俗説である。この説は宮崎駿監督に否定されており、店側がその説を前面に出してPRしているのが実情だ。
似てはいるが、モデルではない。
とはいえ、それを責めるつもりはない。
観光地の茶樓には、観光地の役割がある。
海を見下ろす眺め、提灯のノスタルジー、坂道の途中で流れるゆっくりした時間。
客は茶水費(席料)を払い、台湾茶と茶請けをのんびり味わう。
払っているのは一杯の値段ではなく、その席に座る時間と景色だ。回転は遅く、単価は高い。
前回見たとおり、これは「眺めを飲む時間」を売る、観光地型のかたちである。
では、茶そのものの元祖はどこか。九份茶坊である。
一九九一年、画家・洪志勝が、地元名士・翁山英の百年の古厝を改修し、九份で最初の藝文茶坊として開いた。
建物は新北市の歴史建築に登録され、九份に「茶樓と芸術の結合」という文化そのものを生んだ。掲げる理念は「茶・陶・畫」。台湾茶と、陶芸と、絵画を一つの空間に編み、隣には藝術館や陶工房も連ねた。映画の舞台にも選ばれた、質では群を抜く一軒だ。
面白いのは、その店主の慧眼である。
洪志勝は開業前、台湾じゅうの五百軒を超える茶藝館を訪ね、「茶葉も空間もコストが高く、茶だけでは収益が立たない」と見抜いた。だから彼は、茶に陶と畫と文創を組み合わせた。
考えてみてほしい。
観光地の元祖茶芸館をつくった当人が、「お茶を飲ませるだけの店」では成り立たない、と最初から分かっていたのだ。
これこそ、この『茶藝館シリーズ』の核心の、生きた証明である。

そして、その一軒が町を変えた。
九份で最初の藝文茶樓の登場が「上九份喝茶(九份へお茶を飲みに行こう)」というブームを起こし、続いて二十数軒の特色ある茶樓が生まれた。
寂れた鉱山の町に第二の春をもたらしたのは、鉱石ではなく、一杯の茶と、それを「文化」として見せた一人の画家だった。
だから九份の歩き方は、こうなる。
阿妹茶樓では、海を見下ろす眺めと提灯のノスタルジーを味わう。
九份茶坊では、茶そのものと、それを支える器と空間を味わう。
選ぶときは、行列と提灯の数ではなく、茶葉の種類・淹れ方・器に目を向けること。
観光の喧騒の、一歩奥に、本物の茶の時間がある。
九份の茶芸館が高いのは、飲食店として高いのではない。眺めと、時間と、土地の記憶と、そして茶を支える陶と畫と空間を、まとめて売っているからだ。
茶芸館は「お茶を飲ませる店」ではない——
観光地では、それが「眺めを飲む時間」になる。
次回は、九份とは逆を向く。
観光ではなく、産地に根ざした茶旅へ。
台北の裏山・猫空を訪ねる。
(文章・図表:ChaTea 茶論・林華泰茶行 五代目店主 林 聖泰)
🍵 この先も、お茶の旅をご一緒に
『台湾茶風味輪・国際評茶師講座』、今年始動。

▶https://www.chinatea.co.jp/chatea-blog-20260705/
▶ 学ぶ:<楽茶塾/プロ養成講座/WEBライブ講座>
入門から、茶藝師・評茶師をめざす本格派まで。
→ 【楽茶塾】 イベント @渋谷・華泰茶藝館
→ 【台湾茶・中国茶プロ養成 集中講座】@渋谷・華泰茶藝館
→【ChaTea五代目 中国茶旅探検記】@WEBライブ講座
▶ 茶葉——台湾から産地直送の茶葉を。
→華泰茶荘SHOP(産地からEMS発送)
『ChaTea五代目 中国茶旅探検記』【WEBライブ講座】
WEBライブ講座+公式副読本(8P)+見逃配信付(3週間)
<90分ライブ講座+専門副読本付(8ページ)+見逃配信付(3週間)>
⚫️ 第1回
【シルクロードの茶・歴史・異文化の物語〜西安から敦煌の茶旅行紀行】
⚫️ 第2回
【茶馬古道・天空雪域チベットの紀行 〜茶と文化の物語
⚫️ 第3回
【茶馬古道・シャングリラと千年大茶樹〜雲南の茶旅行紀行】
⚫️<第1回+第2回+第三回>全3回パスセット <8/15まで20%OFF限定価格♪ >

