――蘇場長と語った二時間
午後、台北を出るころには、かなり雨脚が強くなっていました。
風もある。
「今日は本当に行くのか」と思うほどの空模様でしたが、今日だけは行きたい場所がありました。
台鉄に乗り、一時間半あまり。
向かったのは桃園・楊梅です。
今日訪ねたのは、農業部 茶及飲料作物改良場。
昔から台湾茶に関わってきた者にとって、ここは単なる研究施設ではありません。
新品種、栽培、製茶、品質評価、茶飲料、風味研究――。
台湾茶が時代とともに変化していく、その舞台裏を長年支えてきた、
まさに台湾茶研究の中心地の一つです。
今回は蘇場長とお会いし、ゆっくり話をする機会をいただきました。
ところが、話し始めると二時間があっという間でした。
一本の冷たいお茶に「未来」が入っていた
今回、特に興味深かったものの一つが、茶改場で研究・開発が進められている
「冷萃」・低温抽出による新しい茶飲料でした。
一見すると、一本の冷たいお茶です。
しかし、評茶をしていると、どうしても考えてしまいます。
温度が変われば、香りはどう変わるのか。
苦味や渋味はどうなるのか。
甘味、余韻、品種香はどこまで残るのか。
そして何より、
「便利になっても、台湾茶らしさは残せるのか。」
これは、とても面白いテーマです。
「伝統を守る」というと、昔と同じ方法を続けることだと思われがちです。
しかし私は、必ずしもそうではないと思っています。
生活が変わる。
飲み方が変わる。
若い世代が求めるものも変わる。
ならば、お茶も変わっていい。
ただし、何を変えて、何を残すのか。
そこに研究と評茶の意味があります。
台湾という島を、一冊の茶旅行へ
そして今回、もう一つ見せていただいたのが、刊行に向けて準備されている
『Taiwan Tea Journey/臺灣茶旅行』の試読版でした。
ページをめくると、台湾各地の茶園、製茶工場、茶文化施設が紹介されています。
台湾島の上に、たくさんの点が並んでいます。
私はこのページを見ながら、少し嬉しくなりました。
なぜなら、私自身が何十年も続けてきた茶の学び方と、とてもよく似ていたからです。
茶は、教室だけでは分かりません。
山へ行く。
茶畑を見る。
製茶場へ入る。
作り手と話す。
その土地の水を飲む。
そして、その場所で一杯を飲む。
そうすると、教科書に書かれていた「知識」が、自分自身の「記憶」に変わります。
茶を学ぶことは、茶を旅することでもある。
そんなことを改めて感じました。
日本で聞いた「もっと学びたい」を台湾へ
今回の訪問には、もう一つ大切な目的がありました。
今年日本で開催する『初級台湾国際評茶師』、そして日本で初めて本格的に取り組む『中級台湾国際評茶師』の教育プログラムについて、テキスト内容、教材茶、授業、評茶実習、試験などを話し合うことです。
そして私は、日本の受講者から実際に聞いた声も伝えました。
「もっと茶葉を比較したい」
「風味輪を使って、もっと香りを言葉にしたい」
「品種と製法と産地をつなげて理解したい」
「資格を取った後も学び続けたい」
こうした声です。
私は、これはとても大切なことだと思っています。
日本で開催するだけで終わってはいけません。
日本で聞いた声を台湾へ持っていく。
台湾の研究を、また日本へ持ち帰る。
そして、次の授業を少しずつ良くしていく。
蘇場長からも、日本の皆さんから寄せられた意見を今後の改善の参考にしたい、
というお話をいただきました。
これは今日、とても嬉しかったことの一つでした。
雨が止んだころ、二時間が過ぎていた
気がつけば、外は夕方。
あれほど激しく降っていた雨も止んでいました。
最後に記念写真を一枚。
そして「次は台湾で」「今度は日本で」と再会を約束して、茶改場を後にしました。
今日話したのは、一本の冷萃茶のこと。
一冊の台湾茶旅行のこと。
評茶資格教育のこと。
日本の受講者のこと。
一つ一つは小さな話に見えるかもしれません。
けれど、それらをつないでいくと、一つの大きなテーマになります。
これから台湾茶を、誰に、どのように伝えていくのか。
台湾と日本。
研究者と茶人。
産地と教室。
そして、作る人と飲む人。
その間を茶が行き来することで、新しいものが生まれていく。
「以茶会友」。
今日は、この言葉をいつも以上に実感した一日でした。
風雨の中から始まった楊梅への小さな旅。
帰るころには雨が上がり、空も少し明るくなっていました。
台湾茶にも、まだまだ新しい空がある。
そんなことを思いながら、帰りの台鉄に乗りました。
次は「読む」から「飲む・評する」へ
今回の茶改場訪問で改めて感じたのは、台湾茶を理解するには、
知識だけでなく実際に比較して飲み、自分の感覚を言葉にすることが大切だということです。
(文章・写真:林華泰茶行・日本華泰茶荘 五代目店主 林 聖泰)
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今日、台湾で話したことを、今度は日本の茶席で、
一杯ずつ皆さんと確かめていきたいと思います。

