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茶詩詞話|酒のあとの、苦い團茶

―― 李清照『鷓鴣天』と晩秋の一服

目次

宋・李清照『鷓鴣天』の原文

寒日蕭蕭上鎖窗,梧桐應恨夜來霜。
酒闌更喜團茶苦,夢斷偏宜瑞腦香。
秋已盡,日猶長,仲宣懷遠更淒涼。
不如隨分尊前醉,莫負東籬菊蕊黃。

現代語訳

寒々しい日ざしが、格子模様の窓にさしかかる。
梧桐は、昨夜の霜を恨んでいることだろう。酒宴が果てたあとは、團茶の苦みがいっそううれしく、夢が途切れた夜更けには、龍脳の香がことさら似合う。
秋はもう尽きたというのに、日々はなお長い。
故郷を思った王粲よりも、いまの私はなお寂しい。
それならいっそ、成り行きにまかせて杯の前で酔おう。
東の垣根に咲く黄菊を、見過ごしてはもったいない。

――宋・李清照『鷓鴣天』を読む

宴が終わって客を見送り、ひとりになったとき。
私は甘い茶ではなく、少し焙煎の効いた、苦みのある烏龍茶を淹れたくなります。
五代目店主の気まぐれだと思っていたのですが、千年近く前に同じことを書いた人がいました。宋代を代表する女性詞人、李清照です。

寒日蕭蕭上鎖窗,梧桐應恨夜來霜。
酒闌更喜團茶苦,夢斷偏宜瑞腦香。
秋已盡,日猶長,仲宣懷遠更淒涼。
不如隨分尊前醉,莫負東籬菊蕊黃。

寒々しい日ざしが格子窓にさしかかり、梧桐は昨夜の霜を恨んでいるようだ。
酒宴が果てれば團茶の苦みがいっそううれしく、夢が途切れた夜更けには龍脳の香がことさら似合う。
秋はもう尽きたのに、日々はなお長い。
故郷を思った王粲(仲宣)よりも、私はなお寂しい。
いっそ杯の前で酔おう。東の垣根の黄菊を見過ごすまい――。

茶を賭けて笑った人

李清照と茶といえば、思い出す逸話があります。
夫・趙明誠との暮らしを振り返った『金石録後序』の一節です。
食事のあと、二人は書斎「帰来堂」で茶を淹れ、積み上げた書物を指しながら「あの話はどの本の何巻何頁何行目にあるか」を当て合いました。当たった方が先に茶を飲む。
勝った李清照は笑いすぎて、茶を懐にこぼしてしまい、結局飲めなかった――と本人が書いています。

後世、これは「賭書潑茶」と呼ばれる雅話になりました。
若い日の茶は、笑いの茶だったのです。

苦みが「うれしい」理由

ところがこの詞は、靖康の変で北宋が倒れ、江南へ逃れた南渡後の作と考えられています。
故郷を離れ、二人で集めた書物や金石の多くも戦乱で失われました。

その晩秋に飲むのが「團茶」です。宋代の茶は、蒸して搗き固めた固形茶を碾いて粉にし、湯を注いで茶筅で点てる「点茶」でした。
蔡襄『茶録』は、茶の味を「甘滑」を主とすると書き、徽宗『大観茶論』は「香・甘・重・滑」を備えてこそ味が全うされるとしています。
宋の茶人にとって、苦みは本来、理想ではありませんでした。

それでも李清照は「苦」を「喜」と書いた。
酔い覚ましの一杯であると同時に、甘さでは届かない心の場所に、苦さだけが届いたのでしょう。

面白いことに『大観茶論』には、開いた葉は苦いが、飲み終えるとかえって甘みが返る、という観察もあります。苦みのあとに甘さが戻る。茶の味の経験として、これは千年前も今も変わりません
。ただし、これを現代の評茶語「回甘」とそのまま同じものと言い切ることはできません。
古典の言葉は、古典の文脈で味わいたいと思います。

陶淵明の菊が、三度咲く

結びの「東籬菊蕊黃」は、陶淵明「菊を采る東籬の下」を踏まえています。
実は、夫婦の書斎「帰来堂」の名も陶淵明『帰去来辞』から、李清照の号「易安」も同じ辞の一句から取られています。
若い日の帰来堂の茶と、流離の晩秋の黄菊。
二つの時間が、陶淵明という一本の糸でつながっているのです。

そしてこの詞は、酒のあとに苦い茶を喜びながら、最後は「いっそ酔おう」と杯に戻って結ばれます。
酒か、茶か、決めきれない。私はこの揺れこそが人間らしいと思います。
一杯は、心の状態を映す鏡なのです。

晩秋の茶席へ

この季節の茶席なら、焙煎の香ばしい烏龍茶を一種。
一煎目は少しだけ長めに抽出して苦みを確かめ、二煎目、三煎目で甘みが戻ってくる速さを比べてみてください。
黄菊を一輪。
香を焚くなら茶を終えてから
――李清照が「酒のあとに茶、夢のあとに香」と、時を分けて味わったように。

寂しさを甘さでごまかさず、苦さのまま味わう。
そのあとに戻ってくる甘みは、きっと少しだけ深いはずです。

(文章・写真:林華泰茶行・華泰茶荘五代目 店主 林 聖泰)

出典:
本文は『全宋詞』所収。
第一句「鎖窗」は「瑣窗」とする本があります。
作詞時期は南渡後とする説が通説です(年次には諸説あり)。
賭書潑茶の逸話は李清照『金石録後序』。
宋代の茶の味の理想は、蔡襄『茶録』「茶味主於甘滑」、徽宗『大観茶論』「香甘重滑,為味之全」に拠ります。

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