——林華泰茶行、百年茶香をつなぐ家族の物語
——三叔がつないだ「百年の茶香」
「まさか、台湾に帰ってきたこの日に、この番組を見ることになるとは。」
今年の中元節。
台湾へ帰省していた私がテレビをつけると、そこに映っていたのは、見慣れた家族の顔でした。
台湾のテレビ番組『人物大特写』。
今回の主人公は、私の三叔(叔父)、林秀全です。
古い白黒写真が映し出されます。
幼い三叔。
その隣には、私の祖父。
若かった頃の家族たち。
テレビの中では「昔の写真」ですが、私にとっては違います。
それは、私たち家族が生きてきた時間そのものです。
そして番組を見終わったあと、私の頭に残ったのは一つの問いでした。
百年以上続く茶行は、いったい誰が守ってきたのだろう。
茶商の家に生まれた。でも、茶商にはならなかった
三叔は、林華泰茶行という茶商の家に生まれました。
しかし、若い三叔が選んだのは、茶の道ではありません。
勉強を続け、台湾を離れ、アメリカへ留学。
博士号を取得し、結婚し、子どもを育て、海外で自分自身の人生を築いていきました。
「老舗の家に生まれたのだから、当然、家業を継ぐ。」
そんな単純な物語ではありません。
むしろ一度は、林華泰から遠く離れた人生を歩いた人です。
ところが人生とは、不思議なものです。
遠くまで歩いた人が、ある日、もう一度原点へ戻ってくることがあります。
父が弱ったとき、三叔は茶行へ戻ってきた
数年前、私の父の身体が少しずつ弱くなりました。
そのとき、林華泰茶行には、毎日の現場を支える人が必要になりました。
三叔は、そこで立ち上がってくれました。
私の従姉妹と一緒に、父を助け、茶行の管理を担い、仕事を整理し、林華泰茶行の日常を支えてくれたのです。
文章にすれば、たった数行です。
でも、昔ながらの台湾の茶問屋を毎日動かすということは、それほど簡単なことではありません。
朝7時半。
茶行の一日が始まります。
そして夜9時まで。
かつては一年365日のうち、休めるのはわずか数日という生活でした。
茶葉を見る。
香りを嗅ぐ。
味を見る。
焙煎や仕上げを判断する。
量る。
包む。
出荷する。
お客様を迎える。
そして翌朝、また店を開ける。
「百年老舗」という言葉は美しい。
けれど、その裏側にあるのは、華やかな物語ではありません。
誰かが今日も店を開ける。
その一日一日の積み重ねが、百年なのです。
約20年、病とともに。それでも人生を止めなかった
今回の番組でもう一つ、胸に残ったことがあります。
三叔は、約20年にわたりパーキンソン病と向き合ってきました。
身体は、思うようには動かなくなっていきます。
それでも、三叔は人生を止めませんでした。
文章を書き、自分の歩いてきた人生を記録する。
家族と旅行する。
そして、自分の好きなオペラまで学ぶ。
病気になったから人生を小さくするのではなく、
できる形を探しながら、人生を楽しみ続ける。
テレビを見ながら、私はそこに三叔の強さを感じました。
博士号を取るまで学んだ人が、年齢を重ねても、病を抱えても、
まだ新しいことを学ぼうとしている。
これは、なかなかできることではありません。
三叔の人生は、決して平坦ではありません。
だからこそ、私はそこに一つの「伝奇」を感じます。
私は日本にいる。だから、一人では守れない
私自身は長年、日本を拠点にしています。
日本華泰茶荘の仕事があり、中国茶・台湾茶の教育があり、NPO法人中国茶文化協会と一般社団法人中華茶講師協会(旧中国茶インストラクター協会)の仕事もあります。
台湾の茶葉や製茶、品質について技術的に関わることはできても、毎朝7時半に台湾の工場の扉を開けることはできません。
電話だけではできない仕事があります。
オンラインでは守れない現場があります。
だからこそ、父を支えてくれた三叔には感謝しています。
そして今、台湾の現場を支えてくれている表姐、表妹をはじめとする第五世代の家族にも、心から感謝しています。
百年老舗は、一人の「後継者」だけでは守れません。
誰かが茶をつくる。
誰かが店を守る。
誰かが経営を支える。
誰かが歴史を記録する。
そして誰かが、その知識を次の世代へ伝える。
それでいいのだと思います。
父と交わした、私自身の約束
私にも、父との約束があります。
自分が生きているうちに、学んだこと、知ったこと、経験したことを、
できる限り茶を愛する人たちへ返していく。
1990年代から中国や台湾の茶産地を歩き、多くの茶農家、製茶師、研究者と出会ってきました。
評茶を学び、製茶を学び、茶の標準を調べ、昔の写真や資料を整理し、講座や文章として伝えてきました。
以前は、それを単純に「自分の仕事」だと思っていました。
でも最近は、少し違うように感じています。
これもまた、私なりの「家業の継ぎ方」なのではないか。
台湾で毎日茶をつくるだけが、林華泰を継ぐことではない。
父から聞いたことを残す。
祖父たちの時代を記録する。
茶を見る技術を伝える。
そして、次の世代が中国茶・台湾茶を学べる場所をつくる。
知識を残すこともまた、茶香を残すことなのです。
「五代目」は肩書ではなく、「あなたの番」ということ
今回、三叔の番組を見ながら、改めて考えました。
私はよく「林華泰茶行五代目」と名乗ります。
でも、「五代目」とは何でしょう。
立派な肩書でしょうか。
百年続いた家に生まれたことを示す数字でしょうか。
私は、そうではないと思うようになりました。
五代目とは、
「今度は、あなたの番ですよ」という意味なのかもしれません。
祖父たちの番があった。
父たちの番があった。
三叔が支えてくれた時間もあった。
そして今、私たち第五世代の番が来ています。
百年の茶香は、一人ではつなげない
今回のテレビ番組は、もちろん三叔の人生のすべてではありません。
林華泰茶行百余年の歴史のすべてでもありません。
それでも、一人の人生を通して、一軒の老舗がどのように人によって支えられてきたのか、その一端が確かに映っていました。
茶商の家に生まれた少年が、
海を渡り、
博士となり、
家庭を築き、
病と向き合い、
そして家族が必要としたとき、再び茶行へ戻ってきた。
三叔、本当にありがとう。
そして、林華泰を守り続けてきた父と母にも。
今、台湾で支えてくれている第五世代の家族にも。
ありがとう。
百年茶行は、一人の英雄が守るものではありません。
誰かが、必要なときに一歩前へ出る。
その繰り返しによって、百年は百一年になり、
百一年はまた次の一年へ続いていくのだと思います。
次回以降の番組では、どうやら私自身のインタビューも登場するようです。
さて、制作スタッフの目から見た「林華泰五代目」は、
どんな人物として映っているのでしょうか。
少し怖いような。
でも、かなり楽しみでもあります。
次回の放送を、私自身も楽しみに待ちたいと思います。
(文章・写真:林華泰茶行・日本華泰茶荘 五代目店主 林 聖泰)
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