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茶詩詩話|菊酒の重陽に、陸羽は茶を選んだ

目次

――皎然『九日與陸處士羽飲茶』を読む

秋になると、温かい茶の香りが、少しずつ恋しくなってきます。
そんな季節に読みたい、わずか二十字の茶詩があります。

『全唐詩』にも収められる、唐代の詩僧・皎然の作品です。
題名を見て、茶好きならまず目が止まります。

「陸處士羽」。
そう、『茶経』を書いた陸羽です。

現代語にすると

「重陽の日、山寺の僧院。
東の籬では、菊も黄色く咲いている。
世の人々は菊を酒に浮かべて楽しむが、
この菊が茶の香りを助けることを、いったい誰が知っているだろう。」

旧暦九月九日は「重陽」。今年2026年は10月18日に当たります。
菊を愛で、菊花酒を楽しむことも重陽の風習でした。

そこで三句目の「俗人多泛酒」。
「泛」は、ここでは菊を酒に浮かべる情景を思わせます。

ところが皎然は、その定番から少し離れて、
「誰解助茶香」と続けます。
誰が分かるだろう、茶の香を助けることを――。

「東籬」という二文字

もう一つ、見逃したくないのが「東籬」です。
これは単純に「東側の垣根」というだけではありません。

陶淵明の有名な、
「採菊東籬下、悠然見南山」を思い起こさせます。

中国文学において菊は、秋の花であると同時に、
隠逸・清雅・俗世から少し距離を置く生き方とも結びついてきました。
「山僧院」「東籬」「菊」。
わずか十字で、静かな秋の山寺が見えてきます。

相手は「茶聖」陸羽

そして、その茶席の相手が陸羽です。
しかも二人は、たまたま同席したのではありません。
陸羽自身が『陸文學自傳』で、「與吳興釋皎然為緇素忘年之交」と記しています。
僧である皎然と、俗人である陸羽。
立場も年齢も越えた親しい交わりでした。

私がこの詩を好きなのは、そこです。
『茶経』の著者というと、どうしても難しい茶学者の姿を思い浮かべます。
けれど陸羽も、友と山寺に座り、季節の菊を眺めながら茶を飲んでいた。

茶文化は、本の中だけで生まれたのではありません。
人と人が向き合い、一緒に飲んだ一服から育ってきたのです。

では、これは「菊花茶」なのか

ここは、茶文化を専門に扱う者として慎重に読みたいところです。
この二十字だけから、現代のような「菊花茶」を陸羽と皎然が飲んでいた、と断定することはできません。

しかし後世の『百菊集譜』は、「菊花は古人には酒に浮かべ、後世には茶にも入れた」
という説明の中で、この詩を引用しています。
つまり少なくとも後世には、この「助茶香」が菊花入茶の古い例として読まれていたことは確かです。

この「断定しすぎず、しかし史料がどう読まれてきたかを見る」ことも、
古典を茶文化史として読む面白さでしょう。

現代の私たちなら

この詩を、私は単純に「酒より茶が高尚だ」という話にはしたくありません。
むしろ、「みんながそうしているから、自分もそうする」から少し離れる詩だと思います。

重陽なら菊花酒。
それが定番でも、皎然と陸羽は茶を選んだ。

茶を学んでいると、
いつの間にか「こう淹れなければ」「この器でなければ」という決まりが増えていきます。

基本は大切です。
しかし基本を知ったその先には、

「別の楽しみ方はないだろうか」という自由があります。

秋の茶席への提案

現代の茶席なら、黄色い菊を一輪だけ。
器も飾りも増やしすぎず、まず茶そのものを一煎。
香り、口中香、甘み、余韻を確かめます。
そして「誰解助茶香」という一句を思い出してみる。
花を茶湯に入れなくてもいいのです。

茶席に季節の香りと物語が一つ加わるだけで、いつもの茶が違って見えてきます。
古典を読むとは、昔をそのまま再現することではありません。

昔の人が残した「問い」を、今日の一杯でもう一度試してみることです。
世間は菊を酒へ。
皎然と陸羽は、茶へ。

今年の重陽は10月18日。
一輪の菊と一杯の茶で、千年以上前の山寺へ少し旅をしてみませんか。

――五代目店主 林 聖泰

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