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茶館ノート|第5回 「茶水費」って何のお金?

目次

──台湾の茶藝館で、最初に戸惑う会計の話

台湾の茶藝館で、多くの人が最初に戸惑うのが、会計である。
日本のカフェのように「一杯いくら」ではない。
伝票を見ると、茶葉代、お湯代、席代……と、いくつかに分かれている。
これが「茶水費(チャースイフェイ)」だ。
そして、この一見ややこしい料金のかたちこそ、茶藝館の正体を、
いちばん正直に映し出している。

まず、注文のしかたから。
茶藝館では、はじめに茶葉を選ぶ。烏龍茶、包種茶、鉄観音……。
選ぶと、茶葉と、お湯と、ひと揃いの茶器が運ばれてくる。
多くの店では、客が自分で淹れる。
小さな急須に茶葉を入れ、お湯を注ぎ、注ぎ分ける。
ひとつの茶葉で、二煎、三煎、五煎と、何度も淹れられる。
お湯はおかわり自由だ。だから、一度腰を下ろせば、半日だってゆっくり過ごせる。

では、何にお金を払っているのか。
会計は、おおむね三つに分かれる。
葉そのものの代金、お湯(水)の代金、そして席の代金(茶位費)だ。
店によっては「最低消費額(低消)」、一人あたりの最低利用額が決まっていることもある。

つまり茶藝館で払うのは、「一杯の飲み物」ではない。
「良い茶葉」と、「淹れる道具とお湯」と、「ゆっくり座れる席と時間」——
この三つをまとめて借りる料金なのである。

なぜ、こんなかたちになったのか。
庭園茶藝館の話で見たとおりだ。
かつて客は、自分の茶葉を持ち込み、一席で何時間も過ごした。回転はとても遅い。
飲んだ杯数で料金を取っていては、店は立ちゆかない。
だから、「場所」と「時間」そのものに値段をつけるしかなかった。
茶水費は、その時代が生んだ知恵なのだ。

このかたちは、国によってずいぶん違う。
台湾は、茶葉代・お湯代・席代に分け、自分で何煎も淹れる方式。
中国の茶館では、席と茶をまとめた「茶位費」を一人あたりでとるのが一般的で、四川の蓋碗茶のように安く庶民的な店から、格式高い茶楼まで幅広い。
そして日本。喫茶店やカフェは「一杯いくら」が基本で、席やお湯に別料金をつける習慣は薄い。
だから日本の感覚では、「お湯にお金?」と戸惑いやすいのだ。
(日本の茶道は商売の料金ではなく、もてなしと月謝の、また別の世界である。)

では、この台湾の知恵を、どうやって日本の暮らしに根づかせるか。
それは、私たち華泰茶荘がずっと向き合ってきた課題でもある。
東京・芝大門の店では、台湾烏龍茶に茶請けを添えたワンプレートを五百円、ワンオーダーで気軽に——まず茶藝館の入口を、日本の人に広く知ってもらう形にした。
そして二〇〇〇年に開いた渋谷の店では、常時およそ百種類の台湾茶・中国茶に、本格的な茶料理と手作りの茶請けを添えた。
芝大門は普及のため、渋谷は本物を知ってもらうためである。

渋谷の店は、ただ茶を出すだけの場所でもない。
土日や夜には資格の講座や「楽茶塾」の催しがあり、毎年の正月には新年茶会も開く——が、その話は、追って「学ぶ」回でゆっくりしたい。

思えば、これも茶水費が教えてくれたことだ。
茶藝館で払うのは、一杯の値段ではない。場所と、時間と、茶葉に払う。
だから「飲み物を一杯買う」のではなく「半日分の文化体験を借りる」と思えば、決して高くはない。茶水費を理解することは、そのまま、茶藝館とは何かを理解することなのである。

次回は、その「ゆっくり過ごす」中身に入っていく。
茶藝館に座ったら、なぜ最初の一煎を急いではいけないのか、という話を。

(文章・図表:ChaTea 茶論・林華泰茶行 五代目店主 林 聖泰)

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