――スーパーの棚に残る、台湾人のいつもの暮らし
台湾へ帰って4日目。
この日も、外を歩いているだけで汗が出てくるような暑さでした。
散歩を終えたあと、
「少し涼しいところへ行こうか」
と向かったのが、台湾の人なら誰もがよく知っている大型スーパー、家樂福(カルフール)でした。
ところが、今回の家樂福は、いつもとは少し違います。
なぜなら――
「家樂福」という名前が、台湾から消えたからです。
台湾で約40年親しまれてきた家樂福は、買収統合されたため、2026年7月から量販店が「萬家福」、スーパーが「樂家康」という新しい名前へ移行しました。
それでも、私たちが今回訪れた売場には、まだ以前の家樂福らしい雰囲気が残っていました。
看板も、売場も、商品棚も、一夜ですべてが変わるわけではありません。
そこには今日も、買い物カートを押すお父さんとお母さん、走り回る子どもたち、そして台湾らしい食品を探す外国人観光客がいました。
名前が変わっても、台湾人の暮らしは続いています。
そんな「変わるもの」と「変わらないもの」の間を歩くような、不思議な気持ちになりました。
台湾の朝が並んでいる「豆漿」の棚
まず私の目に入ったのが、豆乳や穀物飲料の棚でした。
台湾では豆乳を「豆漿」と呼びます。
原味豆漿、高カルシウム豆乳、黒豆乳、米漿、紫米や燕麦を使った穀物飲料……。
写真を撮りながら、「ああ、台湾の朝だな」と思いました。
台湾旅行の朝食といえば、鹹豆漿や蛋餅を食べに有名店へ行くのも楽しい。
でも、台湾の人が普段どんな飲み物を選んでいるのか知りたければ、スーパーの冷蔵棚を見るのも面白いものです。
一本買ってホテルの朝に飲んでみる。
それだけでも、観光地とは違う台湾が少し見えてきます。
沙琪瑪、煎餅、捲心餅――これは「お土産」ではなく日常
その隣には、懐かしいお菓子がずらり。
「沙琪瑪」(サーチーマ)。
義美の煎餅。
孔雀捲心餅。
葡萄入り、黒糖、落花生、杏仁、南瓜子……。
日本から台湾へ来ると、つい鳳梨酥や有名ブランドのお菓子を「台湾土産」として探してしまいます。もちろん、それも美味しい。
しかしスーパーを歩いていると、
「台湾人が普段食べている台湾」に出会えます。
子どもの頃から見慣れた商品が残っている一方で、味の種類が増え、包装が変わり、「無添加」「高カルシウム」「原料」といった新しい訴求も増えています。
昔からある味と、今の健康志向。
一つの商品棚の中に、台湾社会の変化が見えてくるのです。
台湾旅行のお土産探しにも、スーパーは面白い
そして何より、スーパーは実用的です。
観光地や空港のお土産店とは違い、台湾の家庭が普段利用する価格帯の商品が多く、選択肢も豊富です。
大きな袋を何個もカートへ入れている人を見ると、
「これは観光客のためにつくられた台湾ではないんだな」と実感します。
沙琪瑪を一袋。
煎餅を一箱。
豆漿を一本。
ホテルで食べるだけでもいい。
台湾旅行のちょっとした楽しみになります。
お米売場には、もう一つの「台湾」がある
そして私が必ず足を止めるのが、米売場です。
日本では産地名に目が行きがちですが、台湾の売場を歩いていると、品種や香りを前面に出した米が目につきます。
今回も「芋香米」など、香りを特徴とする米が並んでいました。
以前、日本で米不足が話題になった頃、私たちも台湾の米を持ち帰り、実際に炊いて食べ比べたことがあります。
これが意外に面白い。
同じ「米」でも、品種が違えば香りも食感も違います。
そこで私は、つい茶と同じ見方をしてしまいます。
品種は?
産地は?
香りは?
口に入れた時の質感は?
余韻は?
どうやら茶屋を長くやっていると、
スーパーで米を見ても「評茶」のようになってしまうようです。
私にとって、大型スーパーは少し特別な場所
実は、私が大型スーパーを歩くのが好きなのには、もう一つ理由があります。
父が若い頃、元気だった頃、私たちの仕事でも、こうした大規模な流通の世界と関わる機会がありました。
その後、スタッフ人手やスーパーの経営環境などの変化もあり、現在はそうした売場から離れています。でも、子どもの頃から商売を身近に見てきた私にとって、スーパーは今でも一種の「市場調査」の場所です。
何が増えたのか。
何が減ったのか。
どんな味が流行っているのか。
どんな言葉がパッケージに書かれるようになったのか。
そして、
台湾人はいま、何を「おいしい」と感じているのか。
茶市場を見るのと同じように、私はつい商品棚を眺めてしまいます。
観光名所だけが、台湾ではない
台湾旅行といえば、故宮博物院、台北101、九份、夜市、小籠包、牛肉麺……。
もちろん、それも台湾です。
でも、もし暑い午後や、観光を終えた夜に少し時間があれば、一度台湾のスーパーへ入ってみてください。
豆漿の棚。
お菓子の棚。
米の棚。
麺の棚。
そこには、観光客に「見せるための台湾」ではなく、
台湾の人たちが今日、本当に食べている台湾があります。
「家樂福」という名前は消えました。
けれど、その売場の中に積み重ねられてきた台湾人の暮らしまで消えるわけではありません。
次に台湾へ帰った時には、入口の風景も、棚の商品も、また少し変わっているでしょう。
だから私は、またスーパーへ行くと思います。
台湾の「今」を見るために。
台湾中元帰省旅行、第4回。
今回は、観光名所ではなく、スーパーの棚から台湾を眺めてみました。
次回もまた、ガイドブックだけでは見つからない台湾を歩いてみたいと思います。
(文章・写真:中華茶講師協会理事長・華泰茶荘五代目店主 林聖泰)
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