輸出品だった台湾茶が、「味わう文化」になるまで

茶藝館(茶芸館)が生まれたのは一九七九年、いまから四十年あまり前のことだ。
(最初の一軒の話は前回ふれた)
だが、その背景には百年を超える台湾茶の歩みがあり、茶藝館は一度ブームで爆発したあと、大きく数を減らしている。なのに、茶文化は消えなかった。
今回は、その百年をたどってみたい。
まず、台湾茶は長いあいだ「売る茶」だった。十九世紀後半、外国商人の手で台湾茶の輸出が本格的に始まる。以来、台湾茶は世界へ運ばれる商品であって、島の人々が腰を据えて味わうものではなかった。

転機は、一九七〇年代後半。
経済が伸び、暮らしと味の豊かさを求める空気が生まれた。
日本の茶道と区別して「茶藝」という言葉が提唱され、一九七九年に最初の茶藝館(茶芸館)が開く。
八〇年代の初めには、淹れ方を教える教育の場や、茶人たちの組織も整い、茶芸館はひとつの文化として動き出した。
そして、ブームが来た。
ここで台湾の茶藝館は、独特なかたちを生む。
広い庭と造園を備えた、大きな敷地の茶藝館である。
一九八〇年代、緑と水と石を配した庭園のなかに茶席をしつらえた茶藝館が、各地で人気を集めた。家族や友人が休日をゆっくり過ごし、ビジネスの商談がまとまり、大切な客をもてなす高級な接待にも使われる。
空間には、しばしば生演奏が流れていた。琵琶、古琴、二胡——弦の音が、茶の香りと庭の緑に溶けあう。茶藝館は、台湾でいちばん上等な「社交の場」になった。
とりわけ、この庭園茶藝館(庭園茶芸館)が最も濃く根づいたのが台中である。
雨が少なく、一年を通して気候が穏やかで、台北や高雄よりも町のテンポがのんびりしている——広い庭でゆっくり過ごす茶芸館に、これほど向いた土地はない。
だからいまも、台湾でいちばん庭園茶藝館の密度が高いのは、台中だ。
面白いのは、その同じ台中が、低単価・高回転の代表である珍珠奶茶(タピオカミルクティー)を生んだ街でもあること。しかも——ここに台中の奥深さがある——その珍珠奶茶を世に出した春水堂でさえ、街なかでは広い庭をつくれない代わりに、室内の空間そのものをゆっくり味わわせる、茶藝館のスタイルを採った。
台中では、タピオカミルクティーを生み出した店すら、「茶を飲む場をしつらえる」という文化から、抜け出してはいないのだ。この台中らしい三軒は、第5回でくわしく訪ねたい。

だが、この豪華な庭園茶藝館には、構造的な弱さがあった。
都市化が進むと、広大な敷地の家賃は跳ね上がる。
庭と池の手入れ、設備の維持にも、絶えず費用がかかる。
しかも客は、自分の茶葉を持ち込み、一席で何時間もゆっくり過ごす——
回転は遅く、一席あたりの売上は伸びにくい。
茶葉も空間もコストが高く、収益はどうしても低くなる。
この矛盾が、やがて庭園茶藝館を追い詰めていった。
そこで生まれたのが、いまに続く茶藝館(茶芸館)の料金のかたちだ。
茶葉代、湯(水)代、そして席代——
「場所と時間」そのものに値段をつける方式である(その中身は第6回でくわしく見る)。
茶芸館が「高い」のは、ここに理由がある。
一杯の飲み物ではなく、ゆっくり過ごす時間と空間を売っているのだ。

さらに一九九〇年代以降、泡沫紅茶(バブルティー)や手軽な茶飲料が広がると、気軽な客はそちらへ流れた。かつて全土で五百軒ほどに達し、東南アジアにまで波及した茶藝館(茶芸館)は、見る影もなく数を減らした。街の風景としては、たしかに寂しい。
だが——ここが、この百年の物語の、いちばん大切なところだ。
茶藝館は減ったのに、茶文化は消えなかった。
茶のコンクールも、茶業博覧会も、いまなお続いている。
茶は、産地をめぐる茶旅へ、少人数の教室へ、新しい茶空間へと、形を変えて生き延びた。
流行り廃りで店は減っても、文化は残る。
これこそ、茶藝館が単なる「飲食店」ではなかった、何よりの証拠である。
次回からは、その「生きている茶藝館」を、台湾各地に訪ねていく。
まずは、誰もが知る観光地・九份から。
(文章・図表:ChaTea 茶論・林華泰茶行 五代目店主 林 聖泰)
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